Treatment

氷点下脱毛(詳細説明)

氷点下脱毛について

はじめに

氷点下脱毛を説明するまえに現状の光レーザー脱毛の原理と限界について説明します。
限界をお分かりいただければ、それを乗り越える氷点下脱毛がご理解いただけるとおもいます。

脱毛のターゲットは毛包膨大部にある毛包幹細胞です。
この幹細胞は成長すれば次世代の毛になる細胞ですが、私(当院院長)は幹細胞は毛包の外毛根鞘の最外層にある基底細胞群のいずれかが幹細胞になると考えています。図の赤枠で囲った箇所です。
理由はこちらをご覧ください。

毛包内基底細胞層は毛根から0.1mm程度離れているだけなので、毛根の温度が上がれば、それに連動して基底細胞(≒幹細胞)の温度も上がります。(私は控えめに0.1mm程度としましたが、AIは「0.01~0.05mm程度と極めて近接しているので毛根の熱は瞬時に伝わる」とコメントしてくれました)
ところで、皮膚の中にある毛を毛根といいます。毛根と毛乳頭を勘違いしている人がいますが間違いです。
毛根を55度以上に加熱すれば幹細胞は蛋白変性を起こして毛に成長できなくなると言われています。しかし、低い温度での加熱では幹細胞が変性するまでに時間がかかり、基底細胞層を超えて周辺組織にまで熱が広がり痛みの原因にもなります。
相当な高出力で照射すると毛が燃えた特有の臭いがします。この臭いは毛根内部の水蒸気爆発や蛋白質の炭化によるもので100度前後の急激な熱変化が生じていると推測されるのですが、痛みというよりもバチンとはじかれるような感じがします。実は低温で長時間の加熱のほうが痛みは大きいのです。(実際には痛みが強くなれば照射を中止してしまうようですが…)
脱毛の合併症で一番多いのは皮膚表面のヤケドですが、次に多いのは毛嚢炎です。脱毛での毛嚢炎は毛嚢壁と周辺組織のヤケドが原因です。ヤケドした周辺組織からの浸出液が毛嚢内に溜まって腫れや痒みが生じるのです。
高温で短時間に変性できれば周辺組織のヤケドは最小限となり、毛嚢炎も起きにくくなります。
高温で短時間の加熱方式は「熱破壊式脱毛」、低温で長時間の加熱方式は「蓄熱式脱毛」と呼ばれています。文末で説明しますので最後までお読みください。
脱毛では黒い色素に取り込まれる波長の光線を用います。
光線で黒い毛根を加熱して、その熱で毛根に密着している幹細胞を蛋白変性させるというのが光レーザー脱毛の原理です。

現行の脱毛機にはレーザー光線を用いるものとIPLと呼ばれる強い光線を用いるものがあります。
光線が毛根を必要十分に加熱する条件は、波長・出力・パルス幅(光線一発の持続時間)の三つです。

波長:IPLでは波長を自由に設定できるのですが、レーザーは発振機によって決まっています。
アレキサンドライト755ナノメートル、 ダイオード 800 ~810ナノメートル、ヤグ(Nd:YAG)1064ナノメートルですが、私はレーザーでは出せない700ナノメートルが理想的だと考えています。理由はこちらご覧ください。

出力:たとえば 20J/cm2というように表します。1平方センチに20ジュールの熱量という意味です。(「J」 はジュールの略で1ジュールは0.24ccの水を1度上げる熱量です)
脱毛の効果は出力だけで決まるのではなく、次のパルス幅とのかねあいで決まります。

パルス幅(光線一発の持続時間):20J/cm2の熱量を何秒で照射するかということなのですが、通常は20ミリ秒から30ミリ秒に設定しています。(1ミリ秒=1000分の1秒)
同じ熱量でもパルス幅が短いほどターゲットの温度は急上昇し、周辺組織はあまり上昇しません。
パルス幅が長ければターゲットだけでなく、上げる必要のない(上げたくない)周辺組織の温度を上げることになります。
40度の風呂に30分浸かっていればのぼせることはあってもヤケドすることはありませんが、50度なら数分でヤケドするでしょう。身体が受ける総エネルギーは40度のほうが多いにもかかわらずです。
出力を上げ、かつパルス幅を短くすれば脱毛効果は上がりますが、ヤケドのリスクは高くなり痛みも増します。出力を下げてパルス幅を長くすればヤケドはしませんが効果も落ちます。

レーザー脱毛は1997年から始まりました。それ以前は毛穴に挿しこんだ細い針に電気を流す針脱毛で、私も細々と行っていたのですが、時間と技術が必要な施術でした。
私はレーザー脱毛機が登場した年に導入したのですが、太い毛はともかく細い毛や色黒肌の人ではヤケドが発生しました。
その後、ハンドピースの先端が5度くらいに冷える機械や冷却ガスを吹き付けながら照射する機械が開発され、比較的安全に脱毛できるようになって現在に至っています。
比較的と書いたのは、細い毛や色黒の肌では満足できる結果とならないことも多いからです。

氷点下脱毛について

皮膚表面を5度に冷やせばヤケドが少なくなり結果もよくなったのですから、もっと冷やせば更によくなるはずですが、レーザーの場合は機械の構造上不可能なのです。

IPLでは照射スポットが細長いので両面にペルチェという冷却板を張り付ければ理論上は氷点下にまで下げることができるのですが、現実にそのような機械はありません。
光線照射に表皮から発生する熱をペルチェは吸収できますが、その熱を機械の外に逃がすのが難しいからです。
私はフォトフェイシャルで使用しているIPLに、この熱を外部に逃がす強力な冷却装置を取り付けてハンドピースの先端温度をマイナス10度にまで冷やすことに成功しました。
たぶん世界初ではないかとおもいます。
通常はマイナス8~9度前後で使用しています。

写真は凍ったハンドピースの写真ですが中央のサファイアガラスも冷えています。この冷えたサファイアガラスを通って光線が出ます。
ハンドピースを皮膚にしっかりと押しつけて照射すれば皮膚表面はヤケドしません。

照射の流れを説明します。

①はこれから照射するところです。
②マイナス9度の先端が皮膚に軽く触れたところです。皮膚表面だけが冷えます。
③押しつけていくと毛根が斜めに寝ていきます。
④強く押しつけ終わったところで照射します。照射し終わるとハンドピースは引き上げます。

押しつけ始めて照射まですばやく行うので0.5秒もかかりません。瞬間的に押しつけるだけなので冷えるのは皮膚表面だけで、ターゲットである膨大部までは冷えないので毛の温度上昇が妨げられることはありません。ちなみに、皮膚表面から膨大部までの距離ですが、腕などの細い毛では皮膚表面から1~2mmの深さ、 腋窩や陰部の太い毛では3mm以上になることもあります。表皮から十分に離れているのです。

強く押しつけて照射することで二つのメリットがあります。
一つ目は、凍ったハンドピースが表皮に発生する熱を吸収するので高出力で照射できるというメリットです。しかし逆にいえばハンドピースが皮膚から浮くと高出力ゆえに危険だというデメリットもあります。浮かないように押しつけるのが肝要です。
二つ目ですが、強く押しつけることによって毛は皮膚の中で斜めに寝るので皮膚表面からターゲットまでの距離が近くなり、光線にさらされる面積も増えて、毛一本あたりの受光量が増えて脱毛効率が上がります。冷却ガスを空中噴射する方式だと毛が寝ないので、これは大きなメリットです。

蓄熱式脱毛法について

今まで述べてきた方法は最近では「熱破壊式脱毛法」といわれています。これはヤケドのリスクがあるので「蓄熱式脱毛法」という別の理論に基づくマイルドな脱毛法が普及しています。
冷却装置のついたハンドピースで 1秒間に数回照射しながら、同じ部位を何度も往復して 熱を逃がさず溜めこむというものですが、いくつかの問題があります。

1. 滑らせるスピードが速すぎると、熱が毛根に蓄積する前に周囲の組織へ逃げてしまい、⽬標の55〜60℃に届かない不完全な加熱で終わり脱毛できない。
逆に滑らせるのが遅すぎたり照射が重なりすぎたりすると、熱が溜まりすぎて⽕傷や痛みにつながる。
つまり、施術者の⼿の動かし⽅で効果が変わってしまうのです。

2. 冷却効果とのバランス(打ち消し合い)
ハンドピースの先端は強⼒に冷やされているため、表⽪を守る⼀⽅で、ゆっくり動かすと冷却効果によって深部の熱まで奪われてしまい、温度が上がりにくくなる」というジレンマがあります。冷やしながらも毛根だけをしっかり加温するという絶妙なスピードをコントロールするのは容易ではありません。

3. ⽑質(メラニン量)による限界 蓄熱式でも熱破壊式でも幹細胞を変性させる熱源は、⽑に含まれるメラニンが吸った光です。
産⽑や細い⽑のようにメラニンが少ない⽑では、どれだけ往復照射しても発⽣する熱量⾃体が⼩さいため、ターゲットの幹細胞を破壊できる温度に達しにくくなります。もっとも、これは熱破壊式でも同じですが蓄熱式のほうが顕著です。

蓄熱式脱毛法と熱破壊式脱毛法の違いをまとめました。

比較項目 蓄熱式 熱破壊式
通常のIPL/レーザー 氷点下脱毛
毛根の加熱方法 じわじわ加熱 一瞬で加熱
施術者による個人差
機種による差
施術者 >> 機種
滑らせ方や往復回数に依存するので
施術者 << 機種
適切な出力で隙間なく照射するだけなので
細い毛の効果 困難 困難 比較的可能
色黒肌への安全性 比較的高い 比較的低い 高い
ヤケドのリスク 低い 高い 低い
痛み 少ない 強い 少ない
施術直後の反応
脱毛効果の判断
反応が乏しく、脱毛できたか分かりにくい。 毛穴の発赤があれば脱毛できたと判断できる。

終わりに

ここまでお読みいただきありがとうございました。
氷点下脱毛のメリットばかりを強調した内容に見えたかもしれません。

最後に氷点下脱毛の限界と課題に触れます。

1. 細い毛や色黒肌に対応できるといっても限界があります。産毛のように非常に細くてメラニン含有の少ない毛は難しいです。また、非常に色黒肌も難しいです。一時的に日焼けをしている人は日焼けがおさまってから脱毛した方がよいです。

このようなリスクの高いケースでは前もって小範囲のテスト照射する場合もあります。
この写真では20ジュールと23ジュールでは反応は見られませんが、26ジュールでは燃焼して膨らんだ毛が毛穴から押し出されているのが分かります。このように反応すれば確実に脱毛できたと言えます。

2. 氷点下に冷やして照射しても、照射した瞬間に表皮の温度は急上昇します。その熱を押しつけたハンドピースが吸い取るのです。ハンドピースが皮膚から浮いた状態で照射すると熱を吸収できずに痛みを生じ、ヤケドのリスクが高くなります。骨の上や凹凸のある狭い箇所の脱毛は要注意で、冷却ガス噴射式脱毛に比べて時間がかかるのがデメリットです。

3. 表皮からの「返り熱」を吸収するためにもハンドピースを押しつけ、さらに熱伝導をよくするために水溶性のジェルを塗って照射するのですが、手際よく行わなければマイナス9度のためにジェルが凍ってしまうという問題があります。

4. 男性の密集した髭などでは「返り熱」が大きく、ハンドピースは瞬間的に0度前後まで上昇してしまいます。再びマイナス9度に下がるまで5~6秒、あるいはときにはそれ以上の時間がかかるときがあります。

氷点下脱毛は時間と手間暇がかかるので広範囲の施術は施術者のストレスが大きいです。
他の方法で取り切れなかった毛に対して一番お勧めできる方法かもしれません。

2026年8月 明治通りクリニック 高橋知之 執筆